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「お前はあそこで何をしていた?」 「息をしていました」 「……真面目に答えろ」 土方さんの眉間に皺が寄る。間違ったことは言ってないんだけどな。 「カスミさん。まずは何故あそこに居たのか教えてくれないか?」 近藤さんの問いで、土方さんが自身の膝の上に肘を置き、頬杖をつく。 私が嘘を言わないか監視するかのように、視線は外さない。 「お味噌を分けてもらいに行ったんです」 「うん」 近藤さんが相づちをうってくれる。 「帰ろうとしたら、女の人がうずくまっていて。そばに行ったら、腕を引っ張られて。目が覚めたら、知らない部屋に居ました」 「そうか。その部屋には誰か居たのか?」 急かすでもない、優しい声。ゆっくりと説かれていく時間。 「高杉晋作さんと桂小五郎さん。あと吉田さんも。吉田さんは次の日出かけて、それっきり帰ってきませんでした」 「吉田さんがどこに行ったのかは?」 顔を横に振った。 「分かりません。高杉さんが、私は知らなくていいって」 「……そうか」 小さな声に悲しそうな顔。目が合った近藤さんがそれを隠すように、頬を上げた。 「えっと……その後は二人と居ました。縛られていたわけじゃないので、体の自由はききました。けど、特にすることも無かったし」 「何故逃げなかった」 近藤さんと対照的な声。 「山崎が言うには、楽しそうにしていたみたいだな。お前の言うように、縛られもせず」 「トシ」 私を睨む土方さんを窘めるように、近藤さんが名前を呼んだ。
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