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「トシ。カスミさんを下ろしなさい」 「何故だ?」 「……また落書きをされたいのか?」 「それなら近藤さんもだろ」 腰に回された両腕に力が入り、浅く座っていた場所から深い場所へ引き寄せられた。 落書き。土方さんの顔に書かれた落書きは沖田さんが書いたもの。私に被さり寝ていた土方さんに、それはそれは恐ろしい笑顔で筆を走らせていた。 起きた土方さんが、笑っている私達と沖田さんが持っていた筆を見て。何かに気付き顔を触った。まだ乾いていなかった墨が手について、一瞬にして鬼となった。 これが本当の鬼ごっこです。 でも。沖田さんは、土方さんの顔に残った涙の跡を誰にも見られないように、わざと落書きをした──んだと思いたい。 いや。あの笑顔は楽しんでいた。 だからかな。近藤さんの顔にも僅かだけど涙の跡。だけど。何故土方さんも?顔は洗ってきれいなってるし。さっき心配はしてくれてたけど、泣いてはないし。 「近藤さん。どうして土方さんの顔に落書きをするんですか?」 「どうして、と言われても。なぁトシ」 「オレは知らねぇよ」 私の頭の上に顎を乗せて喋るから振動がね。また頭が痛くなりますよ。ってさっきの頭痛だって言ってなかったっけ。しかも土方さんの大声で更に痛みが増したし。あんなに心配しときながら今は落書きの話ししてるし。あぁあ。なんか眠たくなってきた。 膝の上のユキの体温と背中に感じる土方さんの温もりが眠気を誘ってくる。お腹も減ってきたなぁ。二人は焼き餅がどうとかこうとか話してるし。食べたいなぁ。焼き餅。焼き──餅──。
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