29/33
前へ
/150ページ
次へ
さっきだってそうだ。何も言っていないのに、聞いていないのに。土方さんは、私が欲しい答えをくれた。 「言っておくが。声に関してはオレにも分からねぇからな。カスミにしか聞こえない声に何の意味があるかも分からねぇ。その声が何を伝えたいのか、何を思い出してほしいのか。だから今は考えるな。そのうち分かるさ。お前がここに居る理由も」 怖い。──何が?自分の内側を見透かされて、掻き乱すモノを落ち着かせてくれる、土方さんの声が?何故? 分からない。 怖くて怖くて仕方ないのに。知られたくない、知ってほしい。見られたくない、見てほしい。 矛盾した気持ちを落ち着かせるために、息を深く吸い込み、その全てを吐き出した。 「カスミ」 見るな。見てはいけない。その目を見れば、奥深くを覗かれる。 「……はい」 逸らせない。逃れられない。一度捉えられたら逃げ場なんて無いのに。 「いや。いい」 最後の煙を吐き出し終わると、また文机に向かい筆を走らせ始めた。 分からない。 私には土方さんの目の奥にあるものが。 何も分からない。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

314人が本棚に入れています
本棚に追加