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刹那。
くる。
『なぜ』
──また。
『なぜ土方さんを』
「どうしました?」
聞こえる。
「……声。ですか?」
誰から何を聞いたのかなんて愚問だ。
『なぜ土方さんを選んだんですか』
「はい……沖田さんの声です」
目を閉じれば、幾度も同じ言葉が響いて。声と共に誰のモノかも分からない悲哀が胸を締め付けてくる。
その言葉は私に投げられた言葉。私は何って答えた?その問に何と──。何処かに置き忘れた記憶を辿るにも行き着く所など無い。それでも探さなければこの苦しみから解放されることがない気がする。
だが唯一。逃げ道はあった。
「困った声ですね。あなたを泣かせるなんて」
頬に温もりを感じ、ゆっくり瞼を動かせば。流れる涙をせき止めるように掌が添えられていた。
手から腕へ。腕から肩、首、顎、口、鼻。這うように視線を動かした先。最後に止めた先には目。
沖田さんの目の奥には何がある?
微笑むその奥に。
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