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微笑む。泣いている人を目の前にして困惑するならまだしも。添えられた掌、指が動くことも無い。 堰に溜まった涙が溢れて、沖田さんの甲を濡らした時。 「嬉しいんです」 嬉しい? 「カスミさんが泣いているというのに、私は嬉しいんです。こんなこと思うの可笑しいですよね」 自嘲の笑みをした。 「花見の時、何故泣かなかったのですか?」 「それは……土方さんにみんなの前で泣くなって言われたから」 「一度二人になりました。でもあなたは泣くのを堪えていた。私は……頼りにならない男ですか?」 添えられるだけだった掌に僅かだが、力が入った。 「違います。そんなっ」 頬から温もりが消えた瞬間。体が温もりに包まれた。 「すみません。私までカスミさんを困らせてしまってはいけませんよね」 背中に回された腕は強くも弱くもない。視界は沖田さんの着物をとらえ、聴覚は少しずつ強くなる雨音をとらえていた。
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