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「はぁ~」
肺一杯に吸い込んだ空気を余すことなく吐き出したカスミ。その溜め息は、広間を隅々まで掃除し終えた疲労感では無い。広間の中心で仰向けに寝転がり、意識の半分以上を持って行かれそうな睡魔を蹴散らす為でも無い。寧ろそれを受け入れようとさえしていた。
今朝早く。近藤達と共に土方が江戸へ向けて出立した。つまり。
「鬼の居ぬ間の洗濯だな」
受け入れた睡魔が頭上から聞こえてきた声によって逃げていった。暫く開くことはないと思われた目が開かれ、声の主の姿を見た。
「何だ原田さんか」
「何だって何だよ」
「何だは何だですよ」
「だから」
終わりが無さそうな会話だと原田は思った。いや、くだらないと思ったのか。カスミに倣うように隣に寝転がった。
目を閉じた原田を見てカスミもまた目を閉じる。逃げていった睡魔を呼び戻すのは容易いことだった。“おかえり“と、軽い挨拶を交わし、共に歩みを進めようとした時。
「ンゴォ」
嫌な予感がした。前触れもなく聞こえてきたそれは、始まりの合図。毎晩とは聞こえてはこなくなったが、いや、ただ単にカスミが慣れたのか。またはカスミが深いところまで落ちていて気付かないだけかもしれない。
久しく耳に聞こえてきたのは、原田のいびきだった。さながら騒音。
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