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幸いなことに、原田は大の字で寝ている。更にカスミより背も高い。寝転がった原田の頭の位置はカスミの頭の位置から直線上に位置していた。あまり無理の無い斜めの体勢で既に原田の足に触れることが出来たのだ。 カスミとしては腹に一発とは思ったが、到底不可能。今は騒音さえ止めば満足。たとえ無理のない体勢とは言え、普段はしない格好である。こんな姿、誰にも見られたくはない。一度の衝撃でいびきが止まることを願いながら右足を上げた。 「……カスミさん」 いびきは止まらなかった。止まらなかったのに、カスミの耳には聞こえなくなった。いびきだけではない、音が消えたようだった。いや、自身が消えたかった。 誰にも見られたくないと思った矢先に、誰かに見られたのだから無理もない。それが沖田と斉藤なのだから尚更。いや、誰にもと思ったのなら、この二人以外でも消えたいと思ったに違いない。 ここは先日のように注意を逸らして元の体制に戻るか。ならば今すぐに大声を出さなければ。カスミが既に開けっ放しにしている口から音が出されることはなかった。出したかったが出せなかったのだ。 だが一刻も早くこの姿を元に戻したかった。許されるならば消えたいと願った。なりふり構わず走り出せば良いのだが、こんな時にも左腕で眠るユキのことを思った。ユキさえ起きれば逃げ出せるが、相変わらず気持ちよさそう寝ている。そんなユキをカスミが起こすことなど出来るはずがなかった。元はといえば、今の体勢も全てはユキの為なのだから。 カスミに残された道はただ一つ。二人がこの場から立ち去ってくれるのを願うだけだった。あわよくば、忘れてほしいと願った。
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