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「起きたか?」
そう言われて、カスミはまだ微睡みの中を漂っているのに気がついた。
昼寝にしては少々寝過ぎたようだ。日はまだ沈んではいないが、そろそろ夕飯の支度に取り掛からねばならないだろう。うっすら開けた目を今一度閉じ、覚醒の準備を整えた。
「沖田と喧嘩でもしたのか?」
起きがけの者に対しては唐突な質問である。
カスミも思った。だが、斉藤が何故そのような質問をしたのかも分かる。
上半身の体重を左腕に預けながらカスミは起き上がろとしていた。ユキの枕化していた腕は自由を得ていた。そして起き上がった体に沿うように、羽織が落ちていった。その羽織は沖田の物だ。隣に座っている斉藤は羽織を羽織っているし、何よりその物を眠る前に沖田が着ていたのを自分の目で見ていたのだから。沖田ので違いはない。
「喧嘩なんてしてませんよ」
その言葉に嘘は無い。無いが斉藤が納得できる答えでもない。それさえもカスミは分かっていた。それは斉藤も同じこと。彼から吐かれた“喧嘩“と言う言葉に、本人も違和感を覚えた。ただそれ以外に当てはまる言葉が見つからなかったのだ。
沖田とカスミが喧嘩。それを想像する事が出来なかった。二人は感情を持つ生身の人間ではあるが、互いに対して不平不満も無い。それに付け加え沖田はカスミに優しかった。また逆も然り。
だからこそカスミの行動を見てきた斉藤は違和感を感じずには居られないのだ。
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