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「キレイ」
周りより少し小高いこの場所
家々から漏れる灯りが町を輝かせていた
今ならまだ間に合うかな
「…お前も食べるか?」
何時の間にかお弁当が広げられていて
帰らないと…でも…食べ物の誘惑には勝てません
「ごちそうさまでした」
「…お前も場所取りか?」
へっ?しまった!!
町の灯りの数が減っている
まだ間に合うかも
何処からか遠吠えが聞こえてきた
誰か迎えに来てくれる…かな
「場所取りではないんですが。もう少し、居てもいいですか?」
「…あぁ」
斉藤さんはまた目を閉じ
体を木に預けた
見上げた桜は月に照らされ
また新しい景色を見せる
「この場所知ってます」
私の話し聞いてくれているだろうか
「今や今日じゃなくて。もっと、ずっと前に。ここに来たことがあると思うんです」
言葉にしないと思うだけで終わりそうな気がして
「でも。それがいつで。一人だったのか、誰かと一緒だったのか…何も思い出せない」
言葉にしないとまた泣きそうで
「…その内思い出す。無理するな」
「でも」
「カスミ。無理するな」
初めて斉藤さんが名前を呼んでくれた
だからこれは嬉し涙
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