第一章  闇に潜む「存在」

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「がはっ!」 「は?」  一瞬何が起きたのか分からなかった。見れば男がふっ飛ばされていた。5メートル以上後ろに。 「てめぇ・・・ふざけた真似しやがって!」  もう一人の男が女に殴りかかったが、 「ぐっ!」    目の前の出来事は錯覚ではないと言わんばかりに、先ほどの光景が繰り返された。  (あの女、一体……)  驚きを隠せなかった。女の細腕で60キロ以上はあろう男をふっ飛ばしたのだから。だが、俺にとっての着眼点はそこではなかった。  (なぜ、最初からこの手を使わなかったんだ?)  もちろん、口で解決できればそれに勝るものはないし、力を使うのは奥の手だったと言う風にもとれるが……最初に見た印象とこの行動に俺は強い違和感を覚えた。 「あれ……え……?」    (ん?なにしてんだ?)  女はしきりに首を左右に振っていた。まるで何が起こったか理解できないとばかりに。 「いや…いや…また、だ…………また……」  見た限り強い後悔に苛まれているようだが・・・どういうことだ? 「ごめんなさい……」    女はそう呟き、走り去っていった。  「…………」  いろいろ思うところはあったが、のんびりできる時間帯でもなかったので、さっさと目的の品を買って家に戻ることにした。      (それにしても……)    帰る途中、思い浮かぶのは先ほどのこと。  「腑におちないな、どうしても。」  ずっとひっかかっているのは、あの後に感じた違和感。  「ごめんなさい……」  この言葉を呟いた時の女の雰囲気は最初に見た印象と一致する。ということは、やはりあの時、女が力をふるった時に感じた違和感は気のせいではないということに なるが……それに、事が終わった時に見せたあの動揺した様子。不可解な点はいくつもある。  「わからないまま終わらせるのは癇に障るものがあるな」。  他人と関わりを持つのは正直抵抗があるが……久しぶりに興味を持った出来事に出逢ったんだ。見過ごすつもりなど毛頭ない。  「明日さぐりを入れてみるか。」  やるべきことができた。そう思うと自然と笑みがこぼれた。今日を境に少しずつ日常が変わっていくことを俺は感じていた。
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