第二章 呪いを促す「存在」

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そう、これは俺に言わせれば幸運以外の何物ではなかった。あの夜、女が走り去った時、よほど余裕がなかったのか自分が物を落としたことに気づいていなかった。 そのおかげで、俺は人物を特定する手間が省け、さぐりを入れるところから始めることができる。とはいっても、  「話しかけるタイミングを見つけるというのも中々に骨が折れる作業だな……」  中津川鼎というのは割りと有名な女なのだ。腰まである長い銀髪に誰もが認めるルックスのよさで男子の中でもたびたび名前が飛び交っている。だがそれ以上に 有名なのが、「常に一人でいる」ということだ。話しかけても会話が続かず、部活や委員の勧誘などにも一切耳を傾けることはない。 外見も去ることながら、他人を避けるかのような言動と行動で名が知られているということだ。そのため、   (話しかけるという時点ですでに難易度が高い)  俺も人のことは言えない学生生活を過ごしているので、こういうのは本当に不向きだと言える。しかたない、  「音羽。少し頼みたいことがある」  「ん、何?」  頼りたくはないが、ここは適材適所を行使するのが利口というものだろう。  「今日の放課後に中津川を公園広場に来るよう誘ってくれ」  「え?学生証渡すだけでしょ?」  「学生証はあくまできっかけだ。いろいろ聞きたいことがあるんでな」  「それが……あんたが見つけた目的?」  「あぁ、そうだ。それでどうだ、頼めるか?」  「まあ……あんたからのお願いなんて滅多に無いし……引き受けてはあげるけどさ……相手はあの中津川さんなんだからあんまり期待しないでよ?」  「それで十分だ」  「分かった。それじゃ、ちょっと話しつけてくる」  「あぁ」  音羽は何の気もなく中津川の席に向かっていった。あいつは、どんな人間にも分け隔てなく接することができる。その上ルックスも良く、気さくでさっぱりした 性格なので、クラス内での人気も高い。そのため、正反対の存在である俺と関わりを持っていることに疑問を感じている生徒は少なくない。 以前クラスメイトに聞かれたとき、あいつは、    「そりゃあね……小さいころから面識があったし、話すのは当然だと思うけど……。」  と誤解されないよう、あいつにしては言葉を選んで答えていたようだが、今だに疑問の声は消えていない。
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