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「あいしているよ」
ビック・ベンの鐘の音が遠くに聴こえる、昼食後の穏やかなひと時を破ったのはホームズのそんな言葉だった。
「…は?」
「聞こえなかったかね、ワトソン君。」
そういうとホームズは手にしていたティーカップを乱雑に置き、ワトソンの顔を覗き込んだ。
「愛してると言ったんだよ」
「気でも違ったか」
ワトソンはとっさにホームズがまたコカインを使ったのではないかと逡巡した。
しかしホームズの瞳孔に薬物患者特有の収縮は見られなかったし、つい先日大きな事件片付けたばかりだったので、彼の脳はまだ新たな刺激を求めようとはしない筈だった。
ホームズの行動パターンをしっかりと記憶してしまう位には、二人の過ごしてきた時間は長かった。
相変わらずホームズは微動だにせずにワトソンを見つめている。
その表情は悪戯を仕掛けた子供の様ににやにやしていて、ワトソンは自分がはっきりと苛立つのを感じた。
「顔が近い」と言い、ホームズとの間に新聞を広げる。
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