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「今から保護者向けの手紙を配るから、机じゃなくて鞄にしまうんだぞ」
気が付けば教室で朝倉がプリントを配分していた。
頭の靄が取れない皐月はまるで夢遊病者のようにはっきりとしない意識のまま教室に戻り、少し前の方にある自分の席に着いていた。
(ロジャーの席は一番廊下側の最後列……)
皐月はロジャーの様子が見たくて見たくて仕方がなかった。
いつものように明るい顔をしているのか。それとも今までに見たこともないような顔をしているのか。
振り向きたい。
彼の顔を見たい。
「先生、この列プリントが一枚足りません」
プリントを後ろに回すために一瞬振り向くが、やはり足りない。
それどころか、余計なことばかりに意識が行って。
「おおそうか。すまんすまん」
誰にも見せてはならない表情を、私だけに見せてほしい。
もっと、じっくり貴方を見ていたいのに。
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