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拭けば拭くほど血がパリパリと乾いて落ちていく。
いや、傷が消えている。
消毒液なんかではなかった。はっきり見えるようになった両目でスカジさんのもつ瓶をまじまじと見た。
羽というよりは、三角屋根の塔が三方向に突き出たようなデザインだ。
「任務チャージ、と言われる万能薬ですわ。下の村でも安価で売られていますわ」
にこやかにスカジさんは答えた。
「下の村までご一緒したいのは山々なのですが…私、まだお仕事がありますの。申し訳ありません」
スカジさんは本当に申し訳なさそうにしゅんとした。
「いえいえ大丈夫です!!すみません、手当てまでしていただいて…」
「お気をつけてくださいませ。では、ごきげんようトオルさん。」
最後にほほえむと、スカジさんは草を踏み分けて足早に去っていった。
忙しそうだったが、親切で良い人だ。
僕は返しそびれた布をポケットにしまうと、柵を跨ぎ越えた。
村らしきものはあるにはあるが、結構距離がありそうだ。
まあ、まだわからないことを整理するには一人で歩くのもちょうどいいだろう。
夢にしては現実味がありすぎる異世界の中、僕は一人で歩き始めるのだった。
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