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としあきは出てこない。入ってこい、の意味だろうか。
僕がドアを開くと、奇妙な臭いがした。
暗闇の中でカサカサ、と何かが動く音がする。
「うぇ…きたねぇ…」
六畳ほどの部屋に入ったとたん思わず顔をしかめた。
まず目に入ったのは白い紙。
レシートのような幅と長さで、床やベッドや机を埋め尽くさんばかりに散らばっている。
小机にはカップ麺の容器が放置されており、酸っぱいような臭いが鼻腔をかすめて気分が悪くなった。
リンリンとベルが激しく鳴っている。
鼻をつまみながら受話器を取ると、さっきのおばさんの声がした。
「鍵、開きました。ありがとうございます」
くぐもった声で伝えると、おばさんは朗らかに答えて通話を切った。
一息つくと、僕は大きめの声で呼んだ。
「おい、としあき!ゴミくらい捨てろよ!」
声は小さい部屋に反響した。
お隣さんへの配慮をしたつもりだったけど、壁ドンを予感して僕は思わずボリュームを落とした。
「…としあき?」
質の悪い悪戯でもしようというのか。
孤独死ごっこはさすがに笑えないからやめてほしい。
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