怪物ばなし

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怪物は「夜は土の中で眠るんだ」と言った。 寒くない?と僕が訊くと、「落ち葉をたくさん敷き詰めるから暖かいんだ」と言って喉でゴぉーという音を出した。 その音が遠くの山にあたって戻ってくるのを目で追いながら、僕は山に入って以来戻ることが無かった仲間たちのことを思った。 何を食べて生きてるの?と訊くと、「花と若葉と赤い実」と言った。 「ほらここにもある。」怪物が隣に生えていた木の赤い実を取ろうと手を伸ばしたので、僕は驚いて逃げるようにのけぞった。 怪物はしばらく黙ったあと、「青い実は食べちゃダメなんだ」と言った。 誰から教わったの?と訊くと「ずっと遠い昔に」と言った。 仲間はいるのかい?君と同じような。 「僕と同じようなって?」 怪物と目が合った。汗がこめかみを伝う。背中から汗が噴き出るのを感じた。 さみしくなる時はある?僕は訊いてから後悔した。 「あるよ………、ある。」 僕はもうこの場から立ち去りたかった。 この醜い怪物の、人間臭さを感じるたびに息の詰まるような感情が心を満たした。 残念だが彼は怪物で僕は人間だ。これは仕方がないことなのだ。僕はついに決心した。 「君は帰りたがってる。」怪物は言った。 意表を突かれ、え?と僕は聞き返した。 「僕が後ろを向いている間に帰りなさい。」 怪物は大きな背中を僕に向けた。 僕は立ち上がって何も言わず怪物と別れ山を下った。 振り返りもせず黙々と山を下ったのだった。 村へ入る門ではおばあが出迎えた。僕の目をしばらくじっと見た後におばあはゆっくりと言った。 「会う事が、出来たんだね?」 僕は何も返すことが出来なかったけど、おばあの口元だけは笑っていた。
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