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町から離れた山の奥。
人の手は及ばず、ひたすら植物が生い茂った自然の国。未開の地。
そこを抜けると、不自然に拓けた土地と三階建てのビルが見える。
三階建てと言ってもきちんと壁があるのは二階までで、骨組みしかないそのフロアを三階とみなすのは少し疑問である。
さて、人一人もいないこの地にこのような未完のビル。つまりは建設途中に突然プロジェクトが中止になり、放置された廃ビルが、こんな山奥にポツンと建っている。それはこのビルが心霊スポットとされるのに十分で、しかし時代の流れでお役御免となり、今ではすっかり忘れ去られてしまっていた。
そして、そんな場所に少女はいた。
夏、夕暮れ時、仮にも山奥でしかも心霊スポットとされたこの建物の中を、しかし少女は平然と歩き続ける。
少女はフリルとレースをたっぷりあしらった、所謂ゴスロリを着ている。山登りにも、ましてや夏という季節にもそぐわない格好だ。
だが少女の顔には汗一つなく、凛とした表情はまったく崩れない。長い黒髪をなびかせ歩く様子は常に堂々とした物だ。
少女の名は、伊宮(このみや)マキナ。
麓の町の高校に通う女子高生であり転校生。
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