止ったままの時間

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目を開けると 懐かしい天井だった。 古いデザインのレースの刺繍みたいな壁紙で、年季が入っている。 すーすー 聞こえた寝息の方向を見ると、 かわいい私の天使は こちらに顔を向けて、 いつものおしりを突き出した 『寝にくそうなポーズ』で 気持ち良さそうだ。 顔が和らいで、 ふっと笑顔になる。 安心したのだ。 そして、もう一度 見慣れた天井を見上げ、 ここは実家だと やっと思い出して 目を閉じる。 本当は、天使が ギャオスに変身する前に もう一度寝たかったのだけれど、 キッチンで作業する音が聞こえたので、 起き上がって声をかけた。 『おかぁさん、コーヒー入れてくれない?』 『あら?おこしちゃった?』 母は、 コーヒー豆の缶を手にとり、 開けた瞬間いい香りが広がる。 さっと2杯フィルターに手際良く入れ、コポコポと落ちるのを待った。 ああ、 ここには ワガママを言える相手がいる。 淹れたてのコーヒーを 涙目で飲んだのは、 初めてだった。
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