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「うわぁ、凄く綺麗……」
彼女はそう言って、窓越しの夕焼け空を見つめながら、目を潤ませる。
「本当に、綺麗だな」
俺は、彼女の手をそっと握りしめて、そう返した。
目の前の少女……俺の幼馴染みは、そんな俺を振り返って、儚げに少し笑った。
「どうした?」
「んーん、ただ、幸せだなぁって、さ」
何故だろうか、俺はさっきから、心の中に巣くう不安をかき消せずにいる。それは、今こうやって触れることのできる少女が、フッと消えてしまうのではないか、という予感。
ここは、観覧車の狭い個室の中。そんな事は起こり得ないはずだ、現実にはあり得ない。でも……なぜかその不安は、どんどん大きくなってゆくのだ。
それはきっと、この景色があまりにも幻想的で、この世のものとは思えないほどに美しいから……なのだろう。
「……な、なぁ」
だから、俺はそんな不安を吹き飛ばすように、あえて明るく言った。
「これ降りたらさ、次はどこに行こうか。やっぱりお化け屋敷とかか? それとも」
「ねえ、佑介くん」
不意に、彼女は呟いた。
「異世界って、あるとおもう?」
五分の二ほど昇ったゴンドラの中、彼女は笑う。
「ど、どうしたんだ?きなり」
「……大切な、話があるんだ」
「え?」
まるで、世界の終わりのような黄昏に染まり、彼女の口から発せられた言葉。
「もうすぐ……私は、この世界から居なくなるんだ。全ての記憶と、全ての存在の痕跡と共に、私は消えるの」
「え……?」
それは、今まで積み重ねてきたものの、崩壊の調べ、そして……。
――世界で一番大切な、彼女の、喪失の言葉だった――
『かくも広きこの世界で ~why is the world so fragile?(どうしてこの世界は、こんなにも脆いのか?)』開幕
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