5823人が本棚に入れています
本棚に追加
/358ページ
私は京子のことが気になっていました。
孤独同士の連帯感を感じたわけではありません。
いいえ、そういう気持ちも少しはあったのかもしれませんが……
彼女には、他のクラスメイトにはない上品な落ち着きがあるように見えました。
馬鹿騒ぎをするクラスメイトたちは相手にしないと決めているような、静でありながら凛とした不思議な魅力を感じていたのです。
彼女に初めて話しかけたのは、図工の時間でした。
その日は、家から鋏を持ってくることになっていました。
ほとんどの子達は、文房具店で買ってもらったのであろう、カラフルな持ち手の軽量文具鋏を持ってきていました。
そんな中、鋼でできた重みのある裁ちばさみを出した京子に、隣の席の男の子が意地悪な言葉を吐いたのです。
「おばけ桜木の鋏、だっせーな。ばばあの鋏だろ」
あの、アツシでした。
京子はアツシ達、クラスの一部から「おばけ」や「幽霊」と呼ばれていました。
美しい京子を、そんな風に呼ぶアツシ達の感覚が信じられませんでした。
子供の彼らには、京子の静で凛とした美しさが理解できないのです。
理解できない美しさには、恐れを感じるものなのかもしれません。
彼らが知らないのは美だけではありません。
物の良さも理解できない愚かな者達なのだと感じました。
前の席の子がクスクスと笑います。
班で机を向かい合わせにしていました。
京子とアツシは隣同士、アツシの前には小太りのサユリ、そして京子の前に座っていたのが私でした。
最初のコメントを投稿しよう!