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私は、机の引き出しから自分の持ってきた鋏を取り出しました。
鋼の裁ちばさみ……京子が持ってきた物と同じ物でした。
物を見る目がある人には分かるはずです。
それは、祖母が大事に使っていた裁縫鋏でした。
一緒に人形作りをした時に祖母が私にくれた物です。
プラスチックの持ち手の文具鋏とは品が違います。
「同じ鋏ですね、桜木さん」
私は京子と同じ鋏を持ってきたことが嬉しくて、そう声を掛けました。
二人だけが物の価値が分かる者同士に思えたのです。
話しかけられた京子は、俯いて僅かに頷いたかに見えただけでしたが、私は満足でした。
京子の耳が微かに紅く染まり、私の言葉に応えてくれたのを感じたからです。
「暗えんだよなぁ、おばけは。
だから不気味がられるんだよ。
きっと、おばけのばばあが夜な夜な研いでる鋏でも持ってきたんだろ?はははっ」
性懲りもなく、京子を「おばけ」などと呼ぶアツシに腹が立って、私はアツシを睨みつけました。
見ると、アツシは眼を大きく見開いていました。
アツシは、急に「俺、班変えてほしいよぉ」と大きな声を出し、心底怯えた顔をしました。
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