第十章 それぞれの思想の違い

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「さっきので霊装は使ってしまったから今回は魔科学で代用させてもらうよ。」 そういうと先ほどの魔術と似たように淡い光が発生し光輝の腕の中へと吸い込まれていく。 するとジンジンと光輝の神経を突き刺していた痛みが引いていくのが分かった。 不思議と腫れも治まり、元の華奢というほど細くもないが剛腕というほど太くもない普通の少年の腕に戻っていた。 「はぁ~、大したもんだな~。」 ブンブンと腕の調子を確かめながら感嘆の声を漏らす光輝。 「こんな使い分けができるのもさっき言ったような魔術回路の使い分けがされているからで、普通の魔術師が魔科学を使おうと思ったらそれこそその人の魔術人生を放棄せざるを得なくなるだろうね。なんてったって今まで自分というものを構築していた思想を全否定することになるんだから。」 何気ない調子で言うセスだが、実は一般魔術師が聞いたら卒倒するようなことを言っていると光輝には想像もついていなかった。 そもそも魔術師というものは、目指してなるものではない。 “真っ当な手段では叶わない願い”を持つが故に、彼らは魔術という異常な手段を取らざるを得なかったのだ。 その結果で“魔術師”というポジションを得てしまっただけで、彼らがそれを望んだということは決してない。 魔術師というのは真っ当な人生を望む者にとっては、本来、忌避すべきものなのだ。 しかしこともあろうにセスは違った、その真相はやはり彼が名乗った“魔法名”にあるのだろうか。 “Veritas123-万象真理の探究-”という記号のその本質は、人間の、知恵の実を食べた罪に由来するのか。 それとも、ただの欲求に近いものが彼の行動原理を構築しているのだろうか。 「僕は元々普通の魔術師とは違った経緯で魔術を手に入れているし、彼らからしたら僕の思想を奇異の目で見ることも当然と言えば当然だ。」 そして、ただ、と一度だけ間を置くと虚空をさらに見透かすような眼光で言葉を紡ぐ。 「僕は“魔法名”という概念もそれぞれが持つ一種の信仰のようなものだと思うけどね。」
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