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目覚まし時計が七時きっかりに鳴り響き、騒々しくも平和な一日が始まる。
二人部屋を一人で使い放題というのは嬉しいが、冬の時期だけは広い部屋が災いして肌寒い。兄弟が出来た時の為に二人部屋にしたらしいが、家族が増えるという話は聞かない。お袋は五十手前だし、親父は十年もすれば定年だ。流石にこれから家族が増える事はないだろう。この寒さとは長い付き合いになりそうだ。
暖房のタイマーを入れ忘れた昨日の自分を殴り飛ばしたくなったが、生憎昨日には戻れないので諦める。もう暫らく毛布の呪縛は解けそうになかった。
建築から約十七年。俺が生まれた年に建てられたのだから、数えで十八年になる。
未だに歪む事のない自慢のドアの向こうから、お袋が何やら叫んでいた。朝食が出来たのだろう。ドアを挟んでいる為に、少しだけくぐもった声だ。それでも言葉がはっきりと聞こえるのは、慣れや経験が半分、それと演歌が得意なお袋の発声方法が半分。
五十を手前にして、肺活量は俺よりも遥かに高い化け物だ。町内会のカラオケ大会では、喉自慢達を総嘗めにしたという伝説を持っている。
その歌唱力が息子には引き継がれなかったようで、俺はカラオケが苦手だ。鼻歌ですら音を外しているらしいから相当なのだろう。その部分は親父に似てしまったという事だ。
すぐに行くとだけ伝えて、名残惜しいが毛布はベッドに置いていく。冷えたフローリングが足元から体温を奪い、毛布を手放した事を心底後悔しながらも部屋を出た。
爪先立ちで廊下を進んでリビングに入る。我が家のリビングは、ダイニングとキッチンも兼ねている。所謂LDKと呼ばれる間取りだ。
朝食を運ぶお袋とすれ違い、冷蔵庫から一リットルの牛乳を取り出す。透明なコップに並々と注いで一気に飲み干した。これは毎日の習慣だ。別に、一般的な高校生の平均身長よりも十数センチばかり低い事を気にしている訳ではない。断じて気にしてはいない。
パックの牛乳を元の場所に戻してテーブルに着く。足元を暖める石油ストーブの少し落ち着く匂いに眠気が再燃するが、親父が手紙を差し出してきたので仕方なく受け取った。
親父は顔を顰めたまま新聞を読むという、朝飯時の父親を絵に描いたような日課に戻る。新聞はテレビ欄しか読まない俺には理解できない日課だ。不機嫌そうな顔で読むくらいなら読まなければ良いのに。
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