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クラスの連中の目は白い。普段から、ワープだの次元の歪みだのと宣う(のたまう)コイツは、クラスからは浮いていた。転校生だという事も関係している。
煩わしい学生服を脱ぎ捨てて、少しだけ大人になったような気分で浮かれていた高校一年生の夏。結局はダサい色合いのブレザーに袖を通してテンションは落ちたのだが、夏季休暇を前に瞳を輝かせる生徒たちの中にコイツは突然やって来た。
両親を事故で亡くし、自身も生死の境を彷徨ったらしい。額を包帯でぐるぐると巻きつけられて、ガーゼを押し付けたような眼帯で左目は見えなかった。
転校初日。明らかに重傷を負った少女は終始無言だったのを憶えている。骨折した左腕は巌すら砕くような硬いギプスで固められていた。
質問攻めにされる事は容易に想像できただろう。だが、心身共に大きな傷を負った十六歳の女の子はそれに答える事が出来なかった。
せめて愛想笑いでも浮かべてやれば、男子の二、三人は仮面女などというレッテルを張らなかったに違いない。顔立ちは整っている為、喋らなければ純和風な大和撫子然としているのだ。
そうして質問を無視し続けている内に、コイツはクラスから浮いた存在になった。田舎の町だ。協調性の無い人間は嫌われる。コイツは自分を飾る事や他人から見える自分という物に、全く関心が持てない不器用な人間だった。
故あって俺はコイツと話す機会があったが、それまでは『喋らない奴』という認識しか持っていなかった。コイツの落とした文庫本とも学術書とも取れる、とにかく俺には難しい本を拾った事が、俺の日常を劇的に変えるとは普通は思わないだろう。
それからは、気が付けば自由科学同好会なんて物を勝手に創っていて、俺の名前も当然の事のように部員名簿に載っていた。
校内の階段を一段一段数えて廻り、夜中に段数が増えていないかという馬鹿げた検証に連れ回された事もある。校内のトイレットペーパーの使用量を調べるという、誰が得をするのか分からない活動も日常茶飯事だ。
自由科学同好会の活動は、誰も得をしない代わりに誰も損をしない……主にお互いの時間を浪費するだけの活動を信条としている。
ただ、そんな刺激的だが有意義とは言い難い日常が、楽しかったというのは紛れもない事実だった。
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