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「どうしてだ? その、拠り所にはならなかったのか同好会は?」
「十分にその役目を果たしていたよ。けれど、ワタシ達は何時までも学校には通えないだろう?」
そう。卒業してしまう俺達にとって、単なる部活動は過ぎ行く日の思い出にしか出来ない。自覚は無かったが、肩が震えていた。
吹き曝しの屋上は風除けになりそうな物が無く、落下防止のフェンスは錆付いて穴が開いている。触れただけで崩れ落ちそうなそれに手を伸ばした彼女を引き止める言葉は思い付かなかった。
それでも何かを言おうとして、咄嗟に名前を呼んでいた。
「桐崎志緒理(きりさきしおり)! 叔父さん達はお前が死んだら悲しむぞ。お前の両親もだ。そんな事は絶対に望んでいない。下級生の男子には人気があるから、そいつ等も悲しむだろうな」
何を叫んでいるのか、自分でも良く分からなかった。ただ、目の前で命を絶とうとする親友を引き止めたい一心で、言葉が出てくる。
「俺だってそうだ。相棒が居なきゃ、これから何を生き甲斐にすればいい? 大学へ行っても社会人になっても、お前は俺の相棒だろ?」
体感時間で十分は言葉を吐き出し続けた末に肩で息をする。手を突いた膝は笑っていた。
そんな俺を見下ろす桐崎の目は良く分からない色をしている。困惑というよりは驚きに近い。コイツが動揺する姿を初めて見た俺としては、その姿に驚きだ。
「時空間跳躍はいいのか?」
「ああ。莫迦らしくなった。ワタシの居場所はどうやら案外近くに在ったようだ。それよりも寒いな。その温かそうなコートを寄越せ」
コイツの理不尽な言動には慣れている。抵抗しても無駄な事は経験に裏打ちされている為、俺は渋々であるがコートを差し出した。
赤みを帯びた繊手をコートの袖に通して白い息を吐く。先程と比べれば肌を刺すような痛みも和らぐだろう。代わりに俺は凍えるような寒さと格闘しなければいけないが。
それでも我慢しよう。コイツの命を繋ぎ止めた代償だと思えば安いものだ。例え、バイト代を貯めて買った高いコートの袖で鼻水を拭われようとも……我慢しよう。
「おい、これで風邪でも引いたら看病しに来いよ?」
「何故だ!?」
「何故じゃねえよ!」
結局帰りは二人乗りでコイツの家まで送る事になった。正直、泣いてもいいと思う。
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