鬼頭の花嫁

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「なら、宮野さんって誰の花嫁なんだろうね?」 始業式が終わり、教室でのホームルームも終えて放課後となった。今日はまだ、本格的な授業はしないらしい。 廊下を足早に歩く桜の姿を捉えた女子生徒は声を潜めるように話をする。 「三翼の誰かかしら」 「士都麻先輩かなぁ……」 「早咲君じゃない?」 「でも、同じ委員会の時雨君って噂もあるよね」 「やだ、職員棟にいるなら三翼か鬼頭の花嫁でしかないわ」 横目で桜を見据え、まるで品定めするかのように視線を上下に移動させるが その視線を歯牙にも掛けず、ここぞとばかりに桜は《生徒会室》と書かれた部屋の扉を乱暴に開け放ち、中央にある大きな机に不機嫌そうに座る男に詰め寄った。 「説明して」 怒りを露に詰め寄った桜を華鬼は見つめ、瞼を閉じ。数秒の間を開けてその瞼をゆっくりと開く。その眸は鮮やかな黄金に染まり、妖艶とも見える美しさを一層引き立たせる。 「お前には関係ない」 首筋がチリチリと痛み出す。 「何で黙っていたの」 睨み殺さん勢いで華鬼は桜を見据え、喉をくっと鳴らす。 桜の眸も華鬼と同色、黄金―― 人間とは異なる生き物、怒りを露にする獣の眸へと変わる 「……言いたいことは、それだけか」 数秒の間を開けて、華鬼は口を開ける。いつの間にか眸の色は漆黒へと戻っていた華鬼は皮肉げに口元を吊り上げて―― 「自分が得られなかった幸せを、奴には与えたいのか?…」 その一言に肩をはねあげる。 「自分のエゴを他人に押し付けるのか?」 「黙れ――!!!」 巧く呼吸が出来なくなる。 この張りつめた空気のせいだ 「アイツも、お前もいらないな」 浅い呼吸を幾度か繰り返し、告げられた言葉を聞き大きく息を吸い込んで、桜は強く華鬼を睨みつけ唇を微かに動かす。 「華鬼が何をしようと勝手だけど、私は花嫁を護るから」 小さく。 だが確かに、強くそう告げた。
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