71人が本棚に入れています
本棚に追加
桜が舞っていた。
どこまでも伸びゆく桜の花弁
冬の夜に咲き誇った夜桜は、一人の鬼の命と引き換えに新たな命を生み出した。
遠いむかし――二月の初め、いまだ小雪がちらつくほどに冷えた鬼ヶ里に、一夜限りの狂宴が舞降りる。
何の因果か運命か、鬼頭の花嫁となるべく産まれた少女は初めから産まれた意味がなくなった。梁にくくりつけられたロープを軸に揺れる元、鬼頭………。
――――秋谷成将
それが、桜の鬼となるはずだった鬼頭だった男の名前。
「あの鬼頭が死んだ今、この娘の鬼はこの世にはいないんだ……」
「ああ。なんて可哀想に……、どうして…」
泣きながら言葉をくれる。
それはたんなる慰めなのか
「しかも……、鬼の女児だ」
男は息をのみ、産まれたばかりの赤子を抱いた。鬼と人間の間には決して女児は産まれない。その沈黙がついにこの異端児の誕生で、破られたのだ。
新たな命は同時に芽吹いた
――歴代最高の鬼頭の誕生
そして――――…
決して産まれることない
女鬼の誕生。
それが、全ての始まり。
華鬼と、桜の誕生だった
最初のコメントを投稿しよう!