鬼頭の花嫁

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―――――【二章】 吹き抜く風は、日が陰ることにより肌寒くなっていく。 ここ、鬼ヶ里の秋は足が早い 秋かと思っていたら、すぐに冬へと移り変わってしまうのだ。 気候の変動についていけず、体調を崩してしまうものも中には数人いるだろう。 だが、しかし 今は、それどころではないのだ 「……まさか、な」 誰に呟くわけでもなく、時雨律は苦虫でも噛んだ表情で舌打ちをする。時刻は15時を少し回ったころ、今朝終えた仕事を纏め職員室を後にし、その真実に直面してしまったのだ。 ――鬼頭の花嫁は別にいた 花嫁にはそれぞれ鬼の印がつけられている。印は刻んだ鬼、つまりは自分の花嫁であるシルシ まるで所有物のような――― 「……」 その印には男を惑わせる力が宿っている、印の色香は刻んだ鬼に比例して違う。 勿論 鬼頭などに印を刻まれていたら庇護翼の護りなくして、花嫁は生きていけない ――狂い堕落するか、死を選ぶ 外界からの危険は普通の少女よりもはるかに多いはずだ。 だがしかし、律が見たのはどこにでもいる少女。学園の中でも稀に見ることのない、どこにでもいる少女だ しかし、刻印があることにより少女は知らぬ内に男を誘う妖華となる。そしてその色香は女にはまったく効果がなく、ゆえに少女の苦痛は歴代のどんな花嫁よりも凄惨なものであったに違いない。 今の今まで三翼は、別の少女といたからだ。 誰も疑いわしなかった、しかし今日の一件で不信感を抱いたものも少なからずいるだろう。 律自身、その一人だった
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