憎い人

偶 然

読んでいたﾍﾟｰｼﾞに しおりを挟み咲羅は ﾘﾋﾞﾝｸﾞへ向かった｡

『おかえり』

ｷｯﾁﾝで夕飯の準備を始めようとしている母親に後ろから声をかける｡

何も言わずに 優しく微笑む母の顔に 咲羅の気持ちが和らいだ｡

川崎 真奈美｡

40歳を過ぎても どこか幼くて可愛い母｡

いつも優しくて笑顔の真奈美が咲羅は 何よりの自慢で大好きなのだ｡

『何してたの?』

真奈美が咲羅に聞いた｡

その口元からは 八重歯が覗く｡

『読書だょ｡
本屋さんの店員にお薦めを紹介してもらったの』

そう言いながら咲羅は真奈美の横に立ち 夕飯の準備の手伝いを始める｡

『そぅなんだ｡
お腹 空いたね｡
急いで ご飯作ろ』

咲羅を見て 真奈美がはにかむ｡

私の大好きな お母さん…｡

いつも笑顔で優しい お母さんの涙を 私は一度だけ見た事がある…｡