Chapter 零 

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……今日は、蝉がよく鳴いている。 そんな事を、不意に思った時。 後ろで突然、大きな音がして――前方の叫び声も聞こえていたのだが――私は反射的に振り返った。 「……あ、」 思わず、小さく漏らす。 音の正体は宴会場の扉が勢い良く開かれた事によるものだった。 いやそれより。 扉を開けて入ってきたのは、着物姿の少女と、もう一人は私のよく知る人物で。 そして、待っていた人物で。 だから。 来るのが遅いと文句の一つでも言ってやろうとして。 「如月く――……っ」 ふと彼の右手に目が止まり、言いかけで終わってしまった。 どうやら息を切らしている様子で、肩で息をしている如月君の右手には、何か、黒く光るものが握られていた。 そして。 私が二の句を継ぐより早く、彼はそれを真っ直ぐ私の頭へと向けてきた。
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