Chapter 壱《邂逅に捧ぐ》

2/2

57人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
―八月二十六日― 午前、十時過ぎ。 ……やっぱり暑いな。 そんな事を考えながら、僕はタクシーを降りた。 車内が如何に冷房の恩恵を受けていたかを再認識させられる。日が段々と上ってきている所為か気温はタクシーに乗る前より高く感じられ、その元凶であるところの抜けるような空の青さが眩しい。 去り行くタクシーを一瞥してから、ざっと周りを見回してみる。 夏休みもほぼ終わりに近いからか、思った通り日本人の観光客はあまりいないように見えた。外国人の観光客がよく目につく。 観光客らは騒がしい訳でもなく、たまに通りを走ってゆく車の音を除けば聞こえてくるのはただ、蝉の声と、どこか近所で風に吹かれて凛と鳴いている風鈴の響きだけだった。 「さて、金閣寺は……と」 ショルダーバッグから地図本を取り出し、開く。 近くの標識と照らし合わせてみると、どうやら通りの向かいに渡って道なりに北へと少し歩いた所にあるらしかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加