みどりサン、泣いちゃだめだよ

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「おはようございます‥‥」 事務所兼スタッフルームは良い香りだ。 「おはようございます店長!」 昼勤スタッフの小川みどりが、今日も宮下の事務机の花瓶に、春の花1輪を挿してくれている。 みどりは31歳で既婚。 月曜から金曜までの週5日、夕方5時まで働いているメロウデイ斜め町店の大黒柱だ。 「店長、今日こそメロチキ頑張りましょうね!」 「はい。頑張りましょう。でもね‥‥幾ら安売りだからって、この店でメロチキ60個は無理ですって」 スタッフルームはタタミ6畳ほどの広さに北面の小さな窓、パソコンと防犯カメラのモニターが置かれた事務机と丸椅子が2つ。 「宮下店長は弱気なところがイケナイと思います。ノルマを達成して、新しいSV(スーパーバイザー)にギャフンと言わせましょうよ!」 みどりはカラリと笑ってスタッフルームをあとにした。 「‥‥よし、そんなら頑張りますか!」 宮下はハンガーラックから自分の制服を抜き取った。 若葉色に黒の太い縦線の入った、襟付きのシャツ。 ──いらっしゃいませ── 売り場で元気に声をだす、みどりサンの声がここまで聞こえる。
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