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「おはよ、和睦(なごむ)。よく寝れた?」
声の主は女性らしい高めの声で僕を誘う。女性というより、女の子の声なのだが、少しだけ荒くって中性的にも思える。彼女は声だけを向け、目線は教室前方にある漆黒の板と、カラフルに埋められているノートを交互に見ている。
彼女は小学校、あれ、幼稚園だっただろうか。よく覚えていないが、それくらい昔からの付き合いの長い友人だ。
「朱希(あき)、起こしてよ……」
実際自分はそうそう授業中に寝ることはしなかった。今日は特別で、昨日は読んでいた本が止まらなくて夜更かししてしまったためだ。といっても、やはり他人任せにするのはよくないと、言ってから少しだけの後悔。
木村さんが席に戻ると、なんとなくもう内容が分からなくなっていて、再度黒板を見る気にもなれなくて外を見た。
遠くがゆらゆらと揺れていて、焦点がボケる。セミの声がまるでゲームセンターの中に居るかのように煩くて、それを気にした自分はさらに授業に集中しようという気にもなれなかった。
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