0章

3/6
前へ
/63ページ
次へ
『 』には空白だけが残る。 入ってくるのは人のざわめきと、薬品のキツイにおい。一定間隔で脳裏に釘を打ち込むような電子音。それらは病的にも似て感覚というものを一つずつ潰していくようだった。 自分にはそれがまるで心地よく、死んでいくかのような浮遊感を醸し出していた。広い海原に自分がただ一人仰向けになって浮かんでいる。幻想的なほどの死と生の間を浮遊する自分は、人が思う以上に、それなりに戸惑っていた。 目は明かない。明確に言えば、開けたくない。体中が重くてだるくて動かしたくもない。きっとこればかりは大好きな人に言われても聞きたくないことだろう。 ミシミシと体が鳴る。人の体からするような音じゃなくて、きっと錆びたブランコあたりから聞こえてきそうな軋んだ奇異的な音。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加