1章

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 夏の入道雲がゆっくりと行進しているのが恨めしい。 前の席の親友が、腹を抱えて笑っているのも恨めしい。 どうしたものかと少しばかり考えた。 「先生、分からないです」 「まぁそうだろうなぁ」  嫌みか、こいつは。と、思いながらも口には出さない。それが俺クオリティー。よしよし、俺いい子。 「じゃあ変わりに木村……」  飛び火して、クラスメイトに渡る。彼女も眠かったのか、そんな半ば寝ている瞳をちらりと向ける。健気そうな瞳に自分はちょっと罪悪感。  結局立ち上がったのは左に3つもズレた席の木村さん。自分は席から立つこともなく、ただ木村さんが板書していくのを淡々と見ていっていた。実際その内容を覚えていたかと言えば嘘になる。水は耳に入ったら通り抜けることは無いが、言葉は耳の右から入って左に流れていく。こんなもの将来の役に立ちそうだとも思わない。  というのが中学校までの考えであって、行きたい大学だとかを考えると化学も悪くない授業だと思える。
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