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「どこも異常は見られませんね」
あの日から、何軒めかの病院だが、判で押したように今回も同じことを言われた。
『精神的なものでしょう』と言われても、充実した毎日を送っていた自分には心当たりになるようなこともなく…
「はあ…」
足が重いのは、頭痛のせいなのか、また結果が出なかったことによる落胆が原因なのか…
繰り返し出るため息が、今は一層足を重くしている。
「お姉ちゃん」
振り返ると学校帰りらしい清子が微笑んでいた。
「大丈夫?早くお家に帰ろう。私が手を繋いで引っ張ってあげるから。ねっ、頑張って」
こどもらしい無邪気な清子を鬱陶しく思いながらも、その無邪気さにホッとさせられたりもしている。
「早く…よくなってね。お姉ちゃん…」
繋いだ手に力を入れ、今にも泣き出しそうな目で見上げた顔が可愛らしく…愛おしくて…私も握る手に力を入れ『ありがとう』と笑った。
しかし…自分の伸びた影を見ながら、清子を早く安心させたくても自分でもどうにも出来ない歯がゆさに唇を噛み、油断すれば押し寄せる不安に涙が溢れそうになるのを必死で耐えた。
「もうすぐ、曾おばあちゃんの命日ね…」
相変わらず頭を押さえ食事が進まない私を心配そうに見ていた母が、思い出したように口にした。
「もう…そんな時期なんだ」
カレンダーに目を移し、優しかった長寿の曾祖母を思い出す。
「近いうちにお墓参りに行こう。ねえ、もしかしたら…」
言いかけて母は止めた。
『もしかしたら…おばあちゃんが治してくれるかも』なんて軽く言ってしまいそうだったんだろう。
「そうね…行きたい」
私がそう言うと、母の顔が少し明るくなった。
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