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『実の母親に…たった3ヶ月の私は………帰ってきた父親は、梁で静かに揺れる醜い母親の姿と動かない私を見て…あのバカな男は世間体しか考えなかった。私は…いなかったことにされた。他の姉達はまだ幼かったから、私のことなど忘れていった…』
ぶるぶると蒼い唇を噛み、黒い血を私の上に滴らせながら少女は続けた。
『赤ちゃんだって、全部見ている!感じているの!発することが出来ないだけ…受けた痛みや言葉は覚えている。馬鹿な親はそんな簡単なこともわかってない』
少女は私の首の手に力を込めた。
(く…苦し…誰か…)
『ねえ!何故、まだ赤ちゃんだった私が…何故あんな目に合わなきゃいけなかったの…私だって…』
息の出来ない苦しさで意識を失いそうになると、少女の手の力が抜け、慌てて私は激しく肩と胸を揺らせながら大きく息を吸い込んだ。
『お姉ちゃん…あなたの曾おばあちゃんは、年が離れていたから私のことを覚えてくれていた。お姉ちゃんだけが私を思い出し、いつも涙してくれた。お姉ちゃんだけが…死ぬまで私を想ってくれていた』
(曾おばあちゃんが?)
『父親が後妻を娶った日、お姉ちゃんは夜中に埋葬された私の墓を掘り返し、こっそり私の骨を1本持ち帰った。こどもでお経なんて知らなかったけど、毎日手を合わせ抱きしめてくれた。そう…死ぬまで毎日…』
そんなこと全然知らなかった。
じゃあ、誰も想ってくれなくなったから怒っているんだろうか?悲しんでいるんだろうか?
『私はね…お姉ちゃんが大好きだったの。私の骨を握り、額をこすりつけ抱きしめてくれるお姉ちゃんが…日に日に大好きになっていったの』
少女はさっきまでの形相が嘘のように、恍惚の表情を浮かべた。
それはまるで、母親に抱かれている幸せなこどもの表情……
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