14人が本棚に入れています
本棚に追加
(ここは…どこ?)
遠のいた意識がはっきりした時、私は不思議な場所にいた。
『あなたは私の中にいるのよ。清子』
(どういう…こと?)
私の声がどこからともなく響いてきた。
『あなたは、私の目を通して見ることも、耳を通して聞くことも出来る。でもね、私の中にいるの。もうあなたの体は私のもの』
(い…いや、いや!出して!私は私よ…。出して!)
両手を振り上げ、ドンドンと叩こうとするけれど、透明なケースに閉じ込められているように、出ることも、ましてや自分の体を自由にすることも出来ない。
『おはよう。お母さん』
「あら、おはよう。顔色いいわね」
(助けて、お母さん。私はここよ!お母さん)
私になった少女は、いつもの朝のように母に声を掛けた。
『頭痛治ったのよ』
「そう…よかったわね。今日お曾おばあちゃんの命日だから…きっとおばあちゃんが助けてくれたのね」
母は嬉しそうに目を潤ませて笑っている。
(違う!姿は私だけど…私じゃないの!お母さん!)
『私、おばあちゃん大好きだったからそうかも。お母さんにもいっぱい心配かけちゃった…ごめんね。私…優しいお母さんのこどもで良かった。ありがとう』
偽物の私は、しおらしいセリフを白々しく言ってのけた。
「ば…バカね…親がこどもを心配するの当たり前でしょ。良かったね…あんなに痛がってたもんね…」
母は口を手で押さえ、泣いている。
偽物の気持ちは、私にはハッキリとわかる。
この状況が馬鹿らしく、どうしようもないほど可笑しくてたまらないと思っていることを…
(騙されちゃダメ!お母さん!そいつは偽物なのよ。本当の私はここよ。ねえ…!!)
ーおわりー
最初のコメントを投稿しよう!