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「え、うそホントにコレしかないの?」
声を上げたのは夏芽だ。
「そうみたいだね」と小さな声で答えた亜子の横であたしはまたどんよりと沈み込んでいる。
「あの、貸し出しの水着ってこれだけですか?」
「あ、はいー、ここにあるもので全部になってます~」
近くにいた店員さんに声を掛けた夏芽に爽やかな笑顔とは対照的な無情なセリフが返される。
振り返った夏芽がどうしようという瞳であたしたちを見た。
「…し、仕方ないよ、取りあえず陽介たちのところに戻ろ」
こくんと頷いた夏芽と共にあたしたち三人は、直ぐ側のベンチに座って待つ男子たちの元へときびすを返した。
「ビキニしかない?」
「や、背中隠れるのが無いって言ったんだよ」
瞳を大きくした洋紀に夏芽が白い目で答える。
「や、っていったらビキニかなーって思ってね」
「常にビキニのこと考えてるからビキニしか出てこないんでしょ」
「や、常にではないよ。夏芽今年はビキニ?」
「黙れ」
言い合う二人の横で、小さくため息を吐いたあたしに三人の視線が同時に注がれたのがわかった。
ビキニ、と言うか背中の隠れない水着を着れない理由があたしにはあった。
それをみんなも、解っていた。
あたしの背中には、大きな刺し傷が二つ、刻まれている。
好奇の目に晒されるのはイヤだ。
同情されるのはもっとイヤで、何より引かれるのが一番コワい。
でもそれは然るべき反応であって、それを自分で一番解っているから。
自分が見てもゾッとしてしまうその傷痕を、他人が見て顔をしかめてしまうのは当然のことだと解っているから。
まだ若い子供ならこの痕を見て気を悪くするだろう。
ある程度の大人なら、こんな小さな子のそれも女の子に可哀想に、まだ幼い頃の彼女に何があったのかと不幸がるだろう。
だから、見せたくない
隠しておきたい
コレは、あたしのたくさんあるうちの大きなコンプレックスの一つだ。
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