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ーー
「お風呂、上がったよ」
ちょこりと顔を覗かせた妹を、彼はチラと一瞥した。
読んでいた雑誌を横に置きベッドの上であぐらを掻く。
あたしはそっと中に入るとその傍らに腰をおろした。
差し出した腕に、彼はツゥと消毒液を垂らす。
「…かさぶたになってから、かゆくて仕方ないんだよね」
ぽつりとこぼすように言ったあたしに、陽介は垂れた消毒液をティッシュで拭き取りながら応える。
「…掻くなよ」
「うん。がまん、するけど」
「我慢すればちゃんと治るから」
「…うん」
そうだね
あたしはまだ若いし
ちゃんと、傷は、消えてくれる
「あの、さ」
陽介の長いまつげを見ながら、もう一度、ぽつり。
「…爽太、手、……」
「……気になるなら様子見に行ってやれば」
後の言葉が続かないあたしに陽介はただそう
呟いた。
視線を落とす。
「……」
「…」
あれからもう一週間。
一週間も、爽太に、会ってない。声も聞いてない。
寂しくて、会いたくて、仕方ないのに。
こわい。
声を聞くだけで胸は苦しくなって、顔を見るだけで泣き出しそうになる。
もう、そばで笑える自信がないの。
パチ、と救急箱のふたを閉める微かな音で我に返った。
いつの間にか手当ては終わっていた。
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