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「あの」
陽介があたしに視線を向ける。
「爽太、ちゃんと病院行ったの?」
「…行ってないって言ってた」
「えっ……。でも。結構、深かったよね、病院、行かないと……っ」
「別に治ることには治る。ちゃんと治療してもらうべきだけど」
救急箱を片手に立ち上がった彼の背中を、あたしは不安げな表情で見上げた。
「病院行かなきゃっ…」
「あいつ病院嫌いだからな」
「大丈夫なのっ?」
「大丈夫じゃない。手のひらだぜ?一番使う所なんだ、そら何度も傷口開くわな」
「ーーだめじゃんッ!」
「だめだよ」
本当はもうこの時点で気付いてた。
いつもの抑揚の見えないこのトーンに、苛立ちが含まれていること。
僅か饒舌になった彼の、憤りに。
だけどきっとあたし、それ以上に腹が立ってた。違う。心配で、気が狂いそうだった。何も出来ない自分に嫌悪していた。
「何、その言い方!」
勉強机に向かう兄に思わず叫んでいた。
「わかってるならちゃんと病院行かせてよ!なんで放っておくの!?ちゃんと病院行くよう説得し」
「お前が言えば」
ーーッ!
間髪入れずに返された兄の声色に、ビクリと強張る。
わかっていた結末にそれでもやはり怯んだ。
「何、偉そうに」
振り向いた表情におびえる。
その瞳を凝視したまま逸らせなくなった。
「ぎゃんぎゃん喚くくらいなら自分で言えよ」
「………」
・・・別に、こんな風にマジ切れされたことは初めてじゃない。
けど、よくあることでも無い。
「……だって…」
「お前が言えば言うこときくだろ。自分が一番解ってんだろうが」
「……だってッ」
「あ?なんだよハッキリ言えよ」
「ーーだってッ!」
爽太ってあたしの言うこと何だってきくんだよね
あたしの嫌がること一切しないんだよね
爽太ってあたしが大好きで、あたしが居なきゃ生きてけないんだって
ふふ
爽太って、あたし依存症だよね?
顔が、熱くなる。
本気でそう思ってた。
多分きっと、イマも
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