被害者

6/17
前へ
/251ページ
次へ
「あの」 陽介があたしに視線を向ける。 「爽太、ちゃんと病院行ったの?」 「…行ってないって言ってた」 「えっ……。でも。結構、深かったよね、病院、行かないと……っ」 「別に治ることには治る。ちゃんと治療してもらうべきだけど」 救急箱を片手に立ち上がった彼の背中を、あたしは不安げな表情で見上げた。 「病院行かなきゃっ…」 「あいつ病院嫌いだからな」 「大丈夫なのっ?」 「大丈夫じゃない。手のひらだぜ?一番使う所なんだ、そら何度も傷口開くわな」 「ーーだめじゃんッ!」 「だめだよ」 本当はもうこの時点で気付いてた。 いつもの抑揚の見えないこのトーンに、苛立ちが含まれていること。 僅か饒舌になった彼の、憤りに。 だけどきっとあたし、それ以上に腹が立ってた。違う。心配で、気が狂いそうだった。何も出来ない自分に嫌悪していた。 「何、その言い方!」 勉強机に向かう兄に思わず叫んでいた。 「わかってるならちゃんと病院行かせてよ!なんで放っておくの!?ちゃんと病院行くよう説得し」 「お前が言えば」 ーーッ! 間髪入れずに返された兄の声色に、ビクリと強張る。 わかっていた結末にそれでもやはり怯んだ。 「何、偉そうに」 振り向いた表情におびえる。 その瞳を凝視したまま逸らせなくなった。 「ぎゃんぎゃん喚くくらいなら自分で言えよ」 「………」 ・・・別に、こんな風にマジ切れされたことは初めてじゃない。 けど、よくあることでも無い。 「……だって…」 「お前が言えば言うこときくだろ。自分が一番解ってんだろうが」 「……だってッ」 「あ?なんだよハッキリ言えよ」 「ーーだってッ!」 爽太ってあたしの言うこと何だってきくんだよね あたしの嫌がること一切しないんだよね 爽太ってあたしが大好きで、あたしが居なきゃ生きてけないんだって ふふ 爽太って、あたし依存症だよね? 顔が、熱くなる。 本気でそう思ってた。 多分きっと、イマも
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加