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あたしは、その横腹に強くしがみつきながら微かに首を振った。
そんな妹の背中に手の平を添えて。
「いつまで休む気だよ」
「……」
「不登校になるぞ」
「…」
「美湖」
呼ばれて、顔を上げる。
上げざるをえない。
そんな気にさせられる。
陽介は妹のあたしの扱い方を熟知しているし、あたしも、そんな最愛の兄には一ミリも逆らえることは無い。
「……」
瞳を、交わしても。
別に何も映るわけはなくて。
何も見えるわけはなくて。
それなのに、あたしは。
彼のその眼にいつも無条件に負かされる。
「………わかった」
そう吐き出すよりも先に陽介の身体に顔をうずめた。
拗ねたように言ったあたしの頭を一度だけ撫でてから、彼は囁く。
「じゃあ今日はもう寝ろ」
「………うん」
名残惜しむようにその身体を離す。
ちらりとその目を見つめると、ほんの微か微笑んで、もう一度頭を撫でてくれたから。
だからあたしはもう、それだけで満足しちゃって、素直に立ち上がったのでした。
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