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「……だって爽太君、笑わないんだもの」
「…え?」
ぽつりと、智乃が呟いた。
ゆるりと見上げる。
笑わない?
「笑ってるけど、上の空」
「うわのそら、」
「私にはわかるもん」
思わずすぐそばで佇んでいた二人を振り向いた。
亜子は仄かに微笑んだだけ。
夏芽は呆れたように肩を竦めてみせる。と、不意にあたしの後方を見て軽く声を上げた。
「おー、爽太」
ードキン
「おー」
背後で声がした。高くも低くもない音。よく知ったその音。
目の前の智乃が、あたしの横をすり抜けた。
「爽太君ッ」
一旦沈んでいた視線の波がまた湧き上がる。
あぁ、智乃。
そんなあからさまな態度をとったら、 皆が、勘違い、するから。
そうして誰かに目を付けられて、
あたしみたいにーー・・
ズ、キ
振り返って見た光景に、あたしが傷を負ったのは
決して、誰のせいでもない。
彼の腕に触れる彼女を見て抱いた感情に嫌悪感を覚えた。
違う、だって、安易に触れちゃうと誰かの反感を買っちゃうから。
誰が決めたか知らないけれど、人気者は皆にとって平等であらなければならない。
だけど特別を許されたのが一人、あたしだけ。
でもあたし以外は皆平等でいなければならないから、そうやって、前に飛び出たりなんかしちゃ、そう、だからあたしは、智乃を配慮しているのであって、けして
………決して、コレは、独占欲などでは
「ーー・・美湖」
智乃をほどいてあたしのもとへ歩いてくる爽太への優越感よりも
他の誰かに、智乃に、触れるのを赦している爽太への嫉妬の方が、いつの間にか、勝さっていた。
あたしの傲慢な優越感は、いつの間にか、くしゃくしゃになってしまっていた。
あたしは縋るような彼の瞳から目を逸らした。
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