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「……わかるの…私、ズット見てたから…だからわかるの…」
涙目で呟く彼女に小さな声で返す。
「…でも爽太は智乃が…」
「…嘘よ」
「でもねあたし爽太に言われたんだよッ…?」
見ていたから、解ると言うのなら。
あたしだって、そうだ。
あたしだって、もう十分なほど思い知らされたんだよ、爽太の智乃への気持ちを。
あたしと智乃への愛の違いを。
「ムリ……」
ポツリ。
智乃の瞳から、涙が落ちた。
「…私はずっと、爽太君は美湖が好きなんやって思って、思いながら爽太君を見てた…。やのに急に爽太君は私のこと好きなんか言われて……」
「……」
「初めはちょっと浮かれてたかも知らん。…でもやっぱ爽太君は美湖ばっかやん…。やっぱり信じられへんねんもん……」
「…でもッ」
「じゃあ証拠見せてよッ!」
ぶわあと溢れ出す涙を見つめる。
あたしはいつも、あんな風に、泣いているんだろうか。
「………ごめ……ごめんな美湖……」
「……」
「美湖になりたい…」
「…」
白い右手が涙を拭う。
それでもしつこくソレは溢れ出した。
「美湖みたいに、想われたい……私、美湖になりたい…」
「……」
「わたしは美湖が、羨ましい………」
茫然と立ち尽くすあたしの横を、彼女はすり抜けてゆく。
無意識に、振り返った。
長い髪がなびいてて、とっても、綺麗だなって、思った。
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