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「あーマジうざいわー」
ユカと呼ばれた彼女は後ろからガシリとあたしの腕を掴んだ。
アイがもう片側を掴むから、あたしはまるで犯罪者。
「なに?なんか言われた?」
「ちのになにもしないでぇ~~だってさ」
「ぷっ、キモッ」
あざ笑う二人の間であたしはもがく。
「離して……ッ」
「アンタ最低だね?岩下さんがぼこられるって聞いてまだ逃げたいの?」
嗤ったユカにグゥっと拳の力を強める。
「…逃げない、よ……ッ…」
「じゃあ何?助けるの?」
「確かにこの子コッチ向かってきたねー」
楽しそうに言ったアイに被さるようにユカが
「つうか、」と言葉を漏らす。
「おまえらみたいなガキがヘラヘラ笑ってんの見てるとイライラすんだよね」
「……っ」
「岩下智乃とかもさー、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃん?キモイし。友達居ないくせにさあー」
わかるー、と笑って応えるアイ。
あたしは俯いたまま眉間に強くしわを寄せた。
「……調子になんて乗ってない」
呟いた声は、微かに二人の耳に届いていたようだった。
それは幸か不幸か
「……は?」
「智乃は、調子になんて乗ってないもん…ッ」
「何」
「智乃の気持ちなんて解んないくせに!」
「てめっ」
「ユカ!」
右手を振り上げたユカをアイが小声でたしなめた。
前方、保健室前の廊下を二人の男子生徒が歩いていく。
「……マジはらたつ…ッ!!」
「いいじゃん、向こうで好きなだけヤればいーし」
二人の温度差に少し違和感を感じながら、あたしはユカが力を緩めた一瞬の隙にバッと二人から逃れ駆け出した。
アイは、はじめから力など入れていなかった。
しかしその背中に彼女の声が飛ぶ。
「偽善者」
ーー・・っ?
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