一方通行

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脚を止め、振り返ってしまったのは何故だったのか。 その声を聞かずにいられなかったのは、何故。 「自分は解ったような口振りだけど」 腕を組みながらゆっくりと歩みを進めるアイを、見やる。 それから逃れるように一歩、一歩と後ずさった。 「そう言う人に限って他人の気持ち全然解んないヤツばっかなんだよね。アンタもそうでしょ?」 「…」 「偽善者丸出し」 唇を、噛み締めた。 逃げるように駆け出した。 解るわけ無いじゃない。 だってあの子と関わるようになったのはほんの数週間前のことなのよ。 あたしにだって、なんにも、わかんないよっ。 でも他人に悪く言われてイヤだと感じるくらいには、言い返しちゃうくらいには 情を、持っちゃったんだもの 仕方ないじゃない 仕方ないじゃない。 せり上がった涙を堪えながら走る。 たった十数メートルの廊下が、とてつもなく長く思えた。
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