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「で、でもさっ、あたしはカッコイイと思うよ!」
「……」
智乃が切れ長の瞳であたしを見る。
黒目がちなその瞳はとても綺麗で、何より彼女の美しさを際立たせていると思った。
「あたしはちっともこわくも偏見もない」
「…美湖」
「だってホントだもんっ、カッコイイよ、極道の娘ッ」
「ーー!」
元気付けるつもりで言った。
だって智乃が悲しい瞳を見せるから。
そうしたら少し表情を明るくしてくれたから、だから、
…だから、調子に乗った
智乃の目が見開かれたのと、女子生徒が彼女の腕から逃れたのは、ほぼ同時だった。
それは多分、同時に智乃の腕の力が緩んだせいであって、そしてその原因は、あたしだ。
「ーーえっ、極道の娘っ?!」
ベタリと倒れ込んだ女子生徒が固まる彼女を勢い良く見上げそう叫んだ。
口を覆う。
しくじった、と瞬時に悟った。
「……ち、ちが… 」
言葉が出ない。
否定しなきゃ。
あたしはあの日屋上で、知られたくなかったと泣いた彼女をこの目で見たというのに。
そしてよりにもよってこんな人間の前で口を滑らすなんて。
すぐに広められてしまうに決まっている。
どうしてこうも浅はかなんだろうか。
どうしてこんなにもあたしは、愚かなんだろうか。
「何、アンタやくざの娘なのっ?」
「ーーちがッ……!」
女子生徒が立ち上がる。
智乃と同じくらい長身で細身なせいで、並ぶと余計智乃の綺麗さが際立つ。
そんな彼女が不意にこちらへ向かって脚を踏み出したから、あたしは大きく強ばってしまった。
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