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「…私鍵閉め忘れたのかしら」
眉間にしわを寄せぼやいた教師の横を、アイがスッとすり抜けていく。
先生の表情が変わった。
さすがに雰囲気の重さを感じ取ったみたいだ。
「……あなた達、先生がいないのに勝手に入っちゃダメです、早く戻りなさい」
「ごめんなさい」
眉根を寄せた先生に恐縮し、智乃の後に続いていそいそと出て行こうとしたあたしを先生は呼び止める。
「飯島さん、あなたは残りなさい」
「えっ…」
「首の手当しなきゃいけないでしょう。ここは保健室よ」
立ち止まったあたしを智乃はちらりと一瞥してから、スッと扉を閉めた。
残されたあたしは先生に促されて丸いイスに腰をおろす。
「…首なんてどうやって切ったの」
ぽんぽんと消毒液を浸した綿が傷口を刺激する。
ウッと声が漏れる。
なかなか沁みる。
「……え、……と」
「ねえ、そこに机に置いてたハサミが落ちてるんだけど、あなた触った?」
「へっ……ゃ……あたしは…」
ペタリと貼られた絆創膏の上からペチりと叩かれた。
少しだけ顔をしかめると、真剣な顔がそこにあって。
「今度同じようなことがあったら承知しないから」
「……………はい、」
俯いたあたしの頭を先生は、優しく撫でた。
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