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保健室のドアの直ぐそばで、しゃがみ込む一つの影があった。
目を見開き、声が出そうになるのを辛うじてこらえてそっとドアを閉める。
「………智乃、」
小さな声で囁くと、彼女はすっと立ち上がり歩き出した。
考える間もなくそそっと付いていくあたし。
階段に、彼女は座り込んだ。
あたしはその正面に立つ。
「ごめんね美湖」
深く俯く智乃が不意にそう呟いた。
あたしは戸惑って言葉を返せない。
「首…痛い?ごめんね…」
「えっ…智乃のせいじゃないよ?」
「でも嫌だった。守る気満々だったんだもん」
「守ってくれたよ?」
「傷一つ負わせたくなかったの、負ける気しなかったのに、だから調子に乗って油断して、最悪だった。ショックすぎて、泣いちゃった。ごめんなさい」
あぁ、あの突然の号泣の原因はそれだったの?
なんだよもう、可愛すぎじゃないか。
「智乃って見かけによらず泣き虫だよね」
小さくはにかんだあたしをやっと見上げた智乃。
その表情は依然暗い。
「……美湖はいい子だね」
「…え?」
「ほんと、いい子だよね」
「や、あたしは全然」
「素直で、優しくて、村西さんたちと居るときなんていつもニコニコ笑ってて、可愛い」
言葉を失う。
そんなことないよお~、って、否定するのは違うと本能で感じた。
「……ほんま、かわいい」
「…智乃」
「それに比べてワタシってなんなんやろお…」
ツウ。
涙が頬を伝った。
その頬に描かれた透明の線を凝視する。
「朝もさぁ、酷いことゆって八つ当たりするしなあ」
「…」
「……美湖、ワタシなあ、あんたを利用しようとしてん」
視線を逸らされる。
ゴクリと唾を呑んだ。
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