一方通行

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数分間、身じろぎ一つせずに突っ立っていた。 そんなあたしを不意に誰かが呼んだ。 「美湖?」 俯いていた顔を上げる。 階段の踊場に洋紀がいた。 ととっと降りてくる彼。 「…なにしてんのこんなとこで」 軽くかがんで目線を合わせてくれた彼の瞳をじいっと見つめた。 あたしが見える。 無表情だった。 不意に視界が揺れた。 洋紀があたしを抱いてくれていた。 「どうしたの?」 「………ようき」 「ん?」 「…あたし、一方通行だったの」 「え」 一瞬だった。 視界が滲んだ。 涙が溢れた。 もう何も、見えなくなった。 無くした。 また一人、大切な人を失くした。 それは思いのすれ違いだなんていう可愛い話ではない。 ただあたしがひとりで想いすぎた。 あたしが勝手に愛してしまった。 あたしが勝手にそうだと決め付け思い込んでしまった。 たった数週間であたしは、二人もの人をこの手から離してしまった。 それはあたしの“一方通行”な想いが招いた、惨事だった。 .
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